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食道癌について -外科より-

食道の構造・局在

食道の構造・局在
 食道は、消化管の一部で、咽頭と胃の間をつなぐ長さ約25cm、 太さ2~3cm、厚さ約4mmの管状の臓器です。食道の大部分は 胸腔の中、一部は 首 (約5cm、咽頭の真下)、一部は腹腔に ( 約2cm、横隔膜の真下 ) 存在します。食道は身体の深い部分にあり、胸の上部では 気管と椎体の間にあり、下部では心臓、大動脈、肺 あるいは横隔膜や肝臓に囲まれています。

食道癌の発生部位と病理組織

食道癌の発生部位と病理組織
 日本人の食道癌は、約50% が胸の中の食道の真ん中から(Mt:胸部中部食道)、次に約25%が 食道の下1/3 (Lt:胸部下部食道)に発生します。食道癌は食道の内面をおおっている 粘膜の表面にある上皮から発生します。食道の上皮は 扁平上皮でできているので、我が国では 食道癌の90%以上が扁平上皮癌です。

食道癌の統計

 年齢別にみた 食道癌の 罹患(りかん)率、死亡率は、ともに40歳代後半以降増加し始め、特に男性は女性に比べて急激に増加します。胃癌、大腸癌に比べ、約10歳高齢となっています。
罹患率、死亡率ともに男性のほうが高く、女性の5倍以上です。これらの結果は、食道癌と喫煙、アルコール摂取に因果関係があるためと考えられています。

食道癌の臨床病理・治療の特徴-1

 扁平上皮癌は増殖速度が腺癌と比べ早いことが知られています。このため、一般に胃癌・大腸癌よりも、食道癌は進行しやすいといえます。

 一方、扁平上皮癌は腺癌と比べ、放射線感受性が高いとされ、放射線治療も重要な治療手段となります。

 胃癌、大腸癌と比べ、発症年齢が約10歳高いため、臓器予備能が低下している患者さんが多くなります。逆に手術侵襲は、食道癌の方が大きいため、相対的にリスクが高くなります。

食道癌の臨床病理・治療の特徴-2

 胃、大腸と比べ、食道は、粘膜固有層、粘膜下層におけるリンパ組織が豊富なため、早期にリンパ節転移をきたしやすい特徴があります。

 食道は細長い臓器であるため、リンパ流が広範なネットワークを構成しています。このため、比較的早期であっても、広範なリンパ節郭清が必要となります。このことは食道癌の根治術が侵襲の大きな手術となる原因のひとつです。

 食道に到達する手段として、開胸して、片方の肺を一時、虚脱させる必要があります。このことは、肺合併症を惹起しやすくする原因のひとつです。

食道癌の進行度(stage)

食道癌の進行度

 食道癌の治療法を決めたり、また 治療によりどの程度治る可能性があるかを推定したりする場合、 病気の進行の程度をあらわす分類法、つまり 進行度分類を使用します。わが国では日本食道疾患研究会(現、日本食道学会)の「食道癌取扱い規約」に基づいて進行度分類を行っています。

 各検査で得られた所見、あるいは 手術時の所見により、 深達度、リンパ節転移、他臓器への転移の程度にしたがって病期を決定します。

食道癌の治療

 各種検査の結果を総合的に評価して、 癌の進展度と全身状態から治療法を決めます。 食道癌の治療には大きく分けて、4つの治療法があります。 それは、内視鏡治療、手術、放射線治療 と 化学療法(抗癌剤による治療)です。
 ある程度進行した癌では、外科療法、放射線療法、化学療法を組み合わせて それぞれの特徴を生かした 集学的治療が行われます。

外科療法

 手術は身体から癌を切り取ることを目指す方法で、食道癌に対する現在最も一般的な治療法です。手術では癌を含め食道を切除します。同時にリンパ節を含む周囲の組織を切除します (リンパ節郭清)。食道を切除した後に、食物の通る新しい経路を再建します。
 食道は頸部、胸部、腹部にわたっていて、それぞれの部位により癌の進行の状況が異なっているので、癌の発生部位によって選択される手術術式も異なります。

食道癌の外科療法

胸部食道癌

 原則的に胸部食道を全切除します 。同時に胸部のリンパ節を摘出します。 胸の中にある食道を切除するために、右側の胸を開きます。 当院では胸腔鏡を使って開胸せずに 食道を切除する方法も開始しています。開胸を行わずに 頸部と腹部を切開し食道を引き抜く術式(食道抜去術) もあります。この術式では 食道の周囲のリンパ節を切除できません。

腹部食道癌

 腹部食道の癌に対しては、左側を開胸して食道の下部と胃の噴門部を切除します。左側の開胸による手術は胸部・下部食道癌で肺機能の悪い人にも行われることがあります。これは、左開胸による手術のほうが、右開胸の手術よりも、手術としての侵襲が小さいとされているためです。ただし、左開胸からのアプローチでは、上・中縦隔のリンパ節を郭清することは困難です。

外科療法の合併症

 手術に続いて発生する余病(合併症)は 肺炎、縫合不全 (つなぎめのほころび) 、肝・腎・心障害です。 これらの合併症が死につながる率、すなわち手術死亡率 (手術後1ヵ月以内に死亡する割合)は3~5%です。これは、ほかの臓器の手術に比べ、格段に高い割合となっています。これらの発生率は、手術前に他の臓器に障害をもっている人では さらに高くなります。

食道癌の放射線療法

 放射線療法は手術と同様に限られた範囲のみを治療する局所治療ですが、機能や形態を温存することをめざした治療です。高エネルギーのX線などの放射線を当てて癌細胞を制御します。
 また、放射線療法は治療の目的により大きく2つに分けられます。 癌を治そうとする 根治的治療と、癌による痛み、出血、狭窄などの症状を抑えたり遅らせたりする対症治療(姑息治療)があります。

放射線療法の合併症

 治療中、治療後に起こる有害事象としては、短期的には骨髄抑制、嘔気、食欲不振、咽頭痛がありこれらは次第に軽快します。中長期的には、心臓や肺が照射部に含まれているため、これらの臓器に影響が出ることがあります。放射線性肺臓炎、肺線維症、胸水、心嚢水等です。これらの結果、呼吸不全や心不全をきたすこともあります。脊髄に大線量が照射されると 神経麻痺の症状が出ることがありますが、通常、神経症状が出ないとされている範囲内で治療は行われます。

食道癌の化学療法

 化学治療は癌細胞を制御する抗癌剤を点滴により投与します。抗癌剤は血液の流れに乗って手術では取りきれないところや放射線を当てられないところへも、全身に行き渡ります。他臓器に癌が転移しているときや手術で取りきれなかったときに行われる治療ですが、単独で行われる場合と、放射線療法や外科療法との併用で行われる場合とがあります。また、最近では、治癒率の向上や再発予防を期待して行われることもあります。  

食道癌の内視鏡的粘膜切除術

 食道壁の粘膜下層までにとどまる表在型の癌のうち、粘膜層にとどまりリンパ節転移のない食道癌を早期食道癌と定義しています。
 内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、この粘膜にとどまった癌を内視鏡で見ながら食道の内側から切り取る治療法です。当院では、消化器科と連携のうえ、適応があれば積極的に粘膜切除術を選択しています。


 広範囲に切り取ったり、深くなった場合には治療した痕が引き攣れたり、狭くなる場合があります。 過度に狭くなった場合には、内視鏡を用いた拡張術(内腔を広げる治療)を単回ないし複数回 行う必要が生じることがあります。

 切除した組織を顕微鏡で詳細に検索した結果、癌がより深く進展していたり、リンパ管や静脈へ癌が及んでいた場合には、癌細胞が食道の外側のリンパ節などに広がっている可能性があるため、追加の外科手術や放射線治療、化学放射線治療が必要となることもあります。なお、このことは、食道癌に限ったことではありません。

食道癌に対するステント治療

食道癌に対するステント治療

 癌による食道の狭窄のために食事摂取が困難な場合に、シリコンゴムや金属の網でできたパイプ状のステントを食道の中に留置して、一時的に食物が通過できるようにする治療です。根治手術が困難な場合に行われることが多いです。
 食道に穴があいて消化液や食物が外に漏れて肺炎・膿胸などを起こす場合には、穴をおおうためにも使います。手術下でなく、内視鏡とレントゲンを用いて留置できます。体への負担が少なく、QOL向上のためには有用な治療法ですが、穿孔の誘因となったり、最期まで異物感がとれない患者さんもいらっしゃいます 。

食道癌の治療

 このように食道癌の治療は、それぞれの病変の発生部位、進行度、病状によって多彩な治療法が展開されます。また、患者さん側のご年齢や臓器予備力、ご希望も それらの選択に関係する要因となります。

 当科では消化器科、放射線治療部と十分な連携のもと患者さんの意向を踏まえ、最善の治療を提供するよう努めています。切除不能と思われた症例に対しても、放射線治療や化学療法を駆使した集学的な治療により、極力治癒切除できるよう治療を行っています。

食道癌の予後

食道癌の予後

 左図は、わが国における、2002年度に食道癌に対し各種治療が行われた患者さんの生存率が示されています(病期の進んだ 患者さんが多く含まれます)。
 それによりますと、放射線単独療法よりも化学放射線療法が行われた患者さんのほうが生存率が良好です。 また、術前照射後食道切除術が行われた患者さんの生存率は、さらに良好です。

食道癌の予後
 左図は、わが国における、2002年度に食道癌に対し各種治療が行われた患者さんの生存率が示されています(病期の進んだ 患者さんが多く含まれます)。
 それによりますと、放射線単独療法よりも化学放射線療法が行われた患者さんのほうが生存率が良好です。 また、術前照射後食道切除術が行われた患者さんの生存率は、さらに良好です。
食道癌の予後
 左図は、わが国における、2002年度に食道切除が行われた食道癌患者さんの、病理病期別の生存率が示されています。
 それによりますと、5年生存率は stageIでも 80%に満たない状況であり、 stageII では 50%強、stageIII では 30%未満となっています。病期別の生存率も、食道癌は、他の癌と比べて不良であり、難治性癌といえます。

エビデンスと今後の動向

食道癌治療のエビデンス

JCOG9204:食道癌術後化学療法の比較試験

 stageIIb に相当する組織学的リンパ節転移陽性症例で、術後の化学療法の有無で、5年無再発生存率が 52% vs 38%かつ、p=0.041で有意差が示されました。 この結果は、 リンパ節転移をともなう進行癌においては、 手術単独ではなく、 化学療法の併用 が推奨されることを示しています。 ただし、組織学的リンパ節転移陰性症例では5年無再発生存率は 両群とも約80%と良好で、有意差を認めませんでした。 このことは、リンパ節転移が陰性の症例では、 化学療法は必ずしも推奨されない可能性があることを示しています。

JCOG9906:stageII,III食道癌に対する根治的放射線 化学療法同時併用療法の 第II相試験 (手術拒否症例)

 結果は、CR(ほぼ完全に制御されている)率は 68%で、5年生存率は37%と当時の手術療法と大きな遜色がないことが示されました。ただし、次の JCOG9907 で示された術前化学療法群の5年生存率は60%であり、大きな開きがあります。

JCOG9907:stageII,III食道癌に対するCDDP/5-FUによる術前化学療法と術後化学療法との比較試験

 5年生存率で、術前化学療法群が60%に対し、 術後化学療法群が42%で、術前化学療法群が優れていました。この結果は、stageII,III の進行食道癌においては、化学療法の併用は術後よりも術前に行うことが推奨されることを示しています。 
 当院でもリンパ節転移陽性と診断される進行食道癌においては、原則術前化学療法を行っております。しかしながら、臨床の現場では化学療法を行っている間に病状が進展することもあり、化学療法を中断して手術を行うこともあります。

食道癌の今後の治療の展開

 進行食道癌においての、術前補助化学療法の内容の最善のレジメの追求が進むと思われます。また、術前補助化学療法に放射線治療を付加したレジメの評価も進んでいくと思われます。   

 具体的には、CDDP/5-FUにDocetaxelを加えたレジメによる 化学療法です。 あるいは、 CDDP/5-FU  やDocetaxel/CDDP/5-FUに放射線治療を加えた化学放射線療法です。当院では、患者さん、ご家族へ十分な説明と同意のもと、放射線治療専門医と連携のうえ、切除不能と思われた症例に対しても最新の抗癌剤レジメや放射線を駆使し、可能なかぎり切除を目指して治療を行っています。

 Stage I の表在食道癌では、根治的化学放射線療法で約90%がCRを得られます。その一方で、約20%の再発症例が存在します。これら根治的化学放射線療法後CRが得られた症例に対し、再燃時に外科的切除を行うことを救済手術 (salvage surgery)と呼びます。なお、StageII、IIIの進行食道癌では、根治的化学放射線療法でCRを得て、再燃時に救済手術が行える症例は少なく、あるいは手術できたとしてもR0(癌の肉眼的な取り残しがない)の手術とならないことが多く、予後が不良なことが報告されています。

 その一方で、放射線や化学療法の影響で組織に線維化など変化が生じるため、救済手術は術後の合併症が通常の手術と比べ、多いとの報告が複数なされています。このため、手術関連死の増加が危惧されています。国立がんセンターからの報告では、手術死亡率2.0%、在院死 12.0%というデーターが報告されています。海外からは、MDアンダーソンより手術死亡率 15%との報告もあります。しかしながら、再燃後の長期生存は手術以外の治療ではほぼ期待できないことから、当院でも、R0( 癌の肉眼的な取り残しがない )の手術の可能性がある場合は、十分な説明と同意のもと、選択肢のひとつとして対応する方針です。

当科における食道癌の治療

 当科は、千葉大学第一外科学教室、外科代謝研究室以来食道疾患を専門臓器のひとつとしてきたスタッフを擁しております。食道学会認定医のほか、外科学会専門医、消化器外科学会専門医を中心として治療にあたっています。各種検査の結果を 総合的に評価して、癌の局在・進展度と患者さんの全身状態およびご希望を踏まえ、治療法を相談して決めています。
 早期癌については消化器科と連携のうえ、進行癌については放射線治療部と密接な連携のもと治療法を選択、提示するよう努めています。消化器科、放射線治療部と外科との間では、随時カンファレンスとコンサルテーションが行われています。
 新病院稼働以降、放射線治療設備が整ったことから、近隣の医療機関からもご紹介をいただき、食道癌の治療例が増加しています。手術症例は食道胃接合部癌を含め、例年10例弱ですが増加基調にあります。
 当科では、患者さん、ご家族へ十分な説明と同意のもと、個々の患者さんを一例一例丁寧に治療する方針でいます。切除不能と思われた症例に対しても抗癌剤や放射線を駆使し、可能なかぎり治癒切除および治癒を目指して集学的な治療を行っています。リンパ節転移が否定的な準早期癌に対しては、胸腔鏡下食道切除術も一部導入しています。