■ CLOSE UP -当院で行われる治療方法や知っていただきたい医療情報などをクローズアップします。-

鼠径ヘルニアについて

 鼠径ヘルニアは子供の病気と思われがちですが、むしろ成人に多く、手術以外では治療方法がありません。短期入院が可能な新しい手術方法が普及してきており、積極的に治療した方が良い病気です。日本では年間15万人の方が手術を受けています。
 当院では個別にベストな手術をおこないますので、お気軽にご相談ください。
鼠径ヘルニア外来

 

鼠径ヘルニアの症状は?

 立った時やお腹に力を入れた時に、鼠径部の皮膚の下に柔らかい膨隆ができます。 普通は指で押さえると引っ込みます。鼠径部に何か出てくる感じがあり、小腸などの臓器が出てくると不快感、違和感や痛みを伴ってきます。この膨隆が急に硬くなったり、押さえても引っ込まなくなることがあり、そして腹痛や嘔吐などの症状を伴う腸閉塞状態となることがあります。これをヘルニアの嵌頓(カントン)といいます。
 急いで外科医などによる徒手整復をしなければ腸に穴があき腹膜炎を併発して命にかかわることになります。徒手整復がかなわない場合には緊急手術となることがあります。

 

鼠径ヘルニアになる原因と種類

 男性の場合、出生が近付くと体内にあった睾丸が徐々に現在の位置(陰嚢内、体表)に下降し、その際、睾丸が通った孔(内鼠径輪)と道(鼠径管)が残存しその中を、精索(睾丸と尿道をつないでいる管です)が通っています。女性は子宮円索が通っています。 普通はその周囲の筋肉がしっかりしているので、お腹の中にあるはずの小腸などの一部が鼠径管を通って出てしまうことはありません。
 しかし、孔(内鼡径輪)が先天的に閉じていない場合、または加齢や喫煙によって筋肉や筋膜が弱ってきた場合には、お腹の中にあるはずの小腸などの一部が皮膚の下に脱出てしまい(別名、脱腸といわれるゆえんです)、足の付け根が膨らんでしまいます。睾丸が通っていった孔(鼠径管の入り口)の筋肉が緩んでできた隙間から出て鼠径管を通り脱出するようになった場合を外鼠径ヘルニア(間接型)といいます。
 また、年をとってきて筋肉が衰えてくると腹壁に弱い場所ができ(もともと他の部位に比べて筋肉が薄い場所(筋恥骨孔, myopectineal orifice =MPO)、ここから鼠径管の中に直接に脱出する場合を内鼠径ヘルニア(直接型)といいます。外観は外鼠径ヘルニアと変わりません。また両方の合併する外鼠径・内鼠径ヘルニア合併型もあります。
 鼠径部の下方の大腿部の筋肉が弱くなって大腿動静脈が貫いた孔の周囲から膨らみが発生するヘルニアを大腿ヘルニアといいます。大腿へルニアは痩せた高齢の女性に多いのが特徴です。大腿ヘルニアも鼠径ヘルニアと同様の手術をおこないます。
 鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアと異なり鼠径部に殆ど腫大を認めず、大腿内側に放散する圧痛、しびれ感などを主徴とする閉鎖孔ヘルニアもあり、特殊な手術をおこないます。

 
 
 

 

鼠径ヘルニアになりやすい人

 鼠径ヘルニアは、乳幼児の場合はほとんど先天的なものですが、成人の場合は加齢により身体の組織が弱くなることが原因で、特に40歳以降から男性に多く起こる傾向があり、年齢を増すごとに増えていく傾向にあります。
 鼠径ヘルニア患者の80%以上が男性ですが、これは鼠径管のサイズが男性のほうが大きく、比較的腸が脱出しやすいためと考えられています。40代の発症では、鼠径ヘルニアの発生に職業が関係しているとことが指摘されており、腹圧のかかる製造業や立ち仕事に従事する人に多く見られます。便秘症、肥満、喫煙、前立腺肥大の人、咳をよくする人、妊婦も注意が必要です。日本での年間の手術件数は15万人程度ですが、実際に悩んでいても受診していない人が多数いると推定されます。

 

大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニアになりやすい人

 高齢の女性に、また痩せた方に多く発症します。肥満の既往があり急激に痩せてきた場合に脂肪が抜けて孔(大腿輪、閉鎖管)が生じヘルニアが発生します。通常、狭い孔を腸管が脱出するので腸閉塞となり、腹痛、嘔吐を主症状とし緊急手術となる場合が多くあります。

 

鼠径ヘルニアの治療方法について

 基本的にはヘルニアは手術をしないと治りません。
  • 薬で治療することもできません。
  • いったん出来てしまったヘルニアは体を鍛えるトレーニングをしても治りません。
  • ヘルニアバンドで外から押さえ込む方法もありますが、不適当な圧迫が腹腔内臓器の損  傷につながることもあり、一般的には勧められません。

 

手術方法について

 手術は2つの方法に分類されます。
Ⅰ. 鼠径法(前方アプローチ):(1)~(7)、(9)
Ⅱ. 腹腔鏡下修復術:(8)、(9)

(1) 従来法

 現代の鼠径ヘルニア手術が確立されたのは、1884年にイタリアのEdoardo Bassiniが考案した手術方法が報告された以降です。以後少しずつ工夫、発展がなされて現在にいたります。鼠径管の入り口を縫い縮め、腹壁の筋肉や筋膜を縫い合わせて補強します。Bassini法(バッシーニ法)やFerguson法、Shouldice法、Mercy法、McVay法、Iliopubic tract repair法などが行われてきました。しかしながら、これらの方法は縫い合わせた部分に「つっぱり」が生じて術後の痛みや、つっぱりの部分が裂けて再発の原因になることがあります。術後の2~3日は安静にして、5~7日の入院が必要です。現在、当院ではほとんどおこなわれなくなった方法です。

従来法を行う場合
● ヘルニア嵌頓手術を行い、腸管切除を同時に行った場合(感染の危険性が危惧されますので人工のメッシュは使えません)
● 出産予定のある女性(Mercy法)

 

(2) メッシュ・プラグ法(Mesh-Plug法)とミリカン法(modified Mesh-Plug法)

 現在、本邦で最も多く行われている方法です。1993年、米国の Dr Rutkow らによって考案された手術方法です。傘状のプラグ(栓)である人工補強材(ポリプロピレン製メッシュ)を、小腸などが出てくる筋膜の弱い部分に入れて補強する方法する。本邦では術後の「つっぱり」をなくす目的にて1995年以降行われてきました。太枝はNew JerseyのThe Hernia CenterにてDr Rutkowらの研修を受けています。手術時間も短時間ですみます。しかしながら長期の経過観察からみると違和感などの不定愁訴や再発が散見されました。現在は素材が改良され、ライトパーフィックス・プラグメッシュが主流となっています。メッシュの改善や形状の改善により術後の違和感などかなり改善されました。

  従来のプラグメッシュ
 
 
ライトパーフィックス・プラグ 本術式を考案したDr I.M. Rutkow(右端)、Dr A.W. Robbins(左端)と太枝

 

(3) リヒテンシュタイン法(Lichtenstein Repair)

 1989年に米国のIrving Lichtensteinによって考案された手術方法で、米国においては現在最も多く行われている手術方法ですが、徐々に他の手術方法に移行しています。当院においては、前立腺手術などを行っていて腹膜の前面を十分に剥離できない場合、また再発ヘルニアにて術野が十分に露出できない場合に限って行っています。外側からソケイ部全体をポリプロピレン製ソフトメッシュシートで覆い、縫い付ける方法です。壁や塀の修理に例えると、壁の穴に対して外壁を修復剤にて塗り固めて補修する方法に似ています。

 

(4) PHS法(PROLENE Hernia System Repair)とUHS法(UltraPro Hernia System Repair)

 1999年に米国のDr Gilbertらによって考案された手術方法です。二層の膜とコネクターによって形成された一体型のメッシュにて修復します。前面の層はリヒテンシュタイン法、コネクター部がプラグ法、後面の層は腹膜前の修復の役割を果たすと唱っています。太枝は、内ソケイヘルニアを対象に行ってきました。手術時間は約40~50分程度です。 現在ではメッシュはLarge pore(大きな網目)と半吸収性に改善されたいます

PHS  
UHS  

 

(5) クーゲル法(Kugel Patch Repair)

 1999年に米国のDr Kugel によって考案された手術方法です。形状記憶リングが装着された二重の人工補強剤(ポリプロピレン製メッシュ)を用いて腹膜のすぐ外側を広く覆い、鼠径部の弱い部分全体を一度に補強して腸などが出てくるのを防ぎます。他の手術方法と比べ皮膚切開位置がやや高くなり、アプローチも後方より入る点で他の手術法と大きく異なります。手術時間は約40~50分程度す。

 

(6) ダイレクト・クーゲル法(Direct Kugel Patch Repair)

 米国のDAVOL社とDr Kugel らによって考案された手術方法です。現在、鼠径法(前方アプローチ)の手術のなかでは最も注目されている手術方法と考えています。太枝は2006年4月よりほとんどの症例で行っている方法です。形状記憶リングに縁取られ、中央にストラップの付いた直径12.0×8.0cmの楕円形の人工補強材(ポリプロピレン製メッシュ)で腹膜のすぐ外側を広く覆い、鼠径部の弱い部分の全体(筋恥骨孔, myopectineal orifice =MPO)を一度に補強して腸などが出てくるのを防ぎます。形状記憶リングによりパッチは確実に腹膜前腔で展開します。外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニアを同時に対応できる方法であり、将来的な新しいヘルニアの発生を予防するという大きな利点も有しています。また最小限の固定により術後の痛みや神経痛のリスクも軽減されます。手術時間は約40~50分程度です。

Direct Kugel 法の特長と利点
● 腹膜前腔でパッチを伸展して、腹圧に対する耐久性に優れている。
● ヘルニアの起こりうる部位(Hesselbach 三角、内鼠径輪、大腿輪、外側三角、閉鎖孔)を同時にカバー、補強ができ、さまざまなタイプの鼠径ヘルニアの再発を予防できる(トータルリペア)。

ダイレクトクーゲル法に用いる形状記憶メッシュ

形状記憶リングにより、折り曲げて挿入しても瞬時に広がり、従来のメッシュの欠点であった縮んだりすることがなく、腹膜前腔でパッチが確実に伸張します。また、ズレを生じることもありません。

ポジショニング ストラップ

鼠径管後壁に対して、パッチをフラットに展開する上で役立ちます。固定することによりズレの生じを防ぎ、また固定数が最小限で済み術後の疼痛予防には最適です。

ダイレクト・クーゲル法における術中写真(右ソケイヘルニア)
(右図:腹膜前腔は頭側および尾側に広くメッシュで覆われます。)

ダイレクト・クーゲル法が困難な症例
● 前立腺癌の手術で下腹部を開腹している場合
● 再発ソケイヘルニアで前術式がPHS法やIliopubic tract repair法やMcVay法の場合

Dr Kugel(クーゲル法、ダイレクト・クーゲル法の考案者)と太枝

 

(7) バード ポリソフト法(Polysoft法)

 フランスのDr.Pelissierとバード社によって考案され、2009年に本邦に導入されました。形状維持リングに縁取られた軽量型のポリプロピレン製メッシュでDirect Kugel法と同様に腹膜前腔にメッシュを展開する方法。精索を通すスリットを作成することが異なります。メッシュの形状は腹圧の効果を利用した立体的に弯曲している。 術後の愁訴が少ないとの報告もある。

 

Dr Frederik Berrevoet(ポリソフト法のエキスパート)と太枝

 

(8) 腹腔鏡下ヘルニア修復術(TAPP法、ラパヘル)

 1990年Ger,Schltz,Arreguiらが報告して以来欧米では普及してきました。本邦でも徐々に増加傾向にあります。お腹に3カ所の孔(あな)をあけてカメラと鉗子を挿入し、お腹の映像をテレビモニターで見ながら手術するのが腹腔鏡下ヘルニア修復術(TAPP、ラパヘル)です。腹腔鏡を用いてヘルニアの穴を腹腔鏡側から確認して、腹膜と筋肉の間に補強材、メッシュをおいて固定します。腹腔鏡手術ではそけいヘルニアになりやすい5つの弱い部分(内そけい輪部、内鼡径床、大腿輪部、外側三角部、閉鎖管部)を全てしっかりと覆うことができます。
 当院では積極的に本手術を行っています。これからの手術の主流となると考えられます。 再発ヘルニアにも本手術を行っております。
 自分のヘルニアについて腹腔鏡手術の適応があるか、担当医とよく相談して決めることが大事です。

 

腹腔鏡下手術のメリット
● 術後早期の疼痛の軽減
● 創が小さく美容的
● 両側ヘルニアでも同一創で手術が可能
● 慢性疼痛(1年以上)の減少
● 術後早期の社会復帰が可能
● 複雑なヘルニア(合併する複数のヘルニア、反対側のヘルニア)の診断が容易
● 嵌頓ヘルニアの嵌頓臓器の同定と壊死の有無の評価が容易
● 再発ヘルニアでもヘルニア門の同定が容易(前回の手術による瘢痕の剥離が不要)

腹腔鏡下手術のデメリット
● 必ず全身麻酔で行う必要がある(従来の手術は腰椎麻酔)。
● 従来の手術と比較すると手術時間が長くかかる。
● 従来の手術と比較すると費用が高くなる。

 

(9) ハイブリッド手術(Hybrid operation)

 再発ヘルニアを対象におこなっています。臍部から腹腔鏡を挿入し、再発部位を腹腔鏡内からヘルニア門の位置・大きさ、前回の手術のメッシュの展開状況などを観察します。次に前方アプローチ・直視下手術を行い、最後に再気腹し腹腔鏡で修復状態を確認します。それぞれの利点を活かした方法です。

 

ヘルニア手術治療の特徴

  • 年間140 例以上の手術をおこなっています。
  • 麻酔は原則的には腰椎麻酔、 または全身麻酔。そのほか硬膜外麻酔、局所麻酔(膨潤伝達麻酔、神経ブロック麻酔)でおこなっています。
  • 手術方法は全例がメッシュで補強するテンションフリー手術(腹腔鏡下手術、ダイレクト・クーゲル法、メッシュプラグ法、UHS法、クーゲルパッチ法、リヒテンシュタイン法)をおこなっています。
  • 入院日数は、原則的に2泊3日か3泊4日です。手術日の前日に入院して術翌日ないしは術翌々日に退院となります。
  • 再発例に対する手術方法は腹腔鏡下手術、腹腔鏡を併用したハイブリッド手術をおこなっています。また鼠径法が適応となる場合は、リヒテンシュタイン手術、メッシュプラグ法を主体におこなっています。
  • 手術翌日から入浴(シャワー)が可能です。
  • 早期に退院しても術後1週間の在宅療養をお勧めしています。

外来初診から入院までの流れ

  • 診察にて鼠径部の膨隆が確認されれば、CT撮影をお勧めします。
  • CT撮影は腹臥位でお臍(おへそ)と太ももにタオルを置いて鼠径部を浮かせます。そして腹圧をかけて、息を止めて撮影します。 外鼠径ヘルニアなのか内鼠径ヘルニアかの鑑別診断が可能です。
  • 腹腔鏡下手術や鼠径法手術のそれぞれのメリット、デメリットなど十分に説明を受けて手術法を決め、入院、手術日の設定をおこないます。(腹腔鏡下手術の適応があれば、第一義的な手術としてお勧めしています)
  • 手術後1週間は在宅療養が必要ですので、仕事の都合や家族の都合なども十分に配慮して日程を決めてください。

入院期間について

  • 当院では腹腔鏡下ヘルニア修復術は2泊3日(内鼠径ヘルニア、両側ヘルニアの場合は3泊4日)、鼠径法(前方アプローチ)は3泊4日の入院を原則としています。 →クリニカルパス
  • 手術前日に入院して、手術の翌日ないしは翌々日に退院となります。退院後はシャワー入浴が可能です。在宅療養は退院後3~5日必要です。

入院費用について

  • 入院費用についてはお一人ごとに違いがありますので、詳細は医事課にご相談ください。(高額療養費に該当する場合があります。)
  • 従来法の手術の場合(3泊4日)、概算は3割負担の方は約8万円、2割負担の方は約5万円、1割負担の方は約3万円です。
  • 腹腔鏡下ヘルニア修復術の手術の場合、概算は3割負担の方は約16万円、2割、1割負担の方は約5万円です。